「在宅療養推進法」が出来ると訪問看護師の働き方はどう変わる?

訪問看護師のまおつんです。

相談者
訪問看護の将来ってどうなりますか?
国から指針などは出ていますか?

今回は訪問看護に関して気になるトピック「在宅療養推進法(仮称)」について、「日本訪問看護協会」のニュースリリースの内容を紐解きながら解説していきます。

 

このブログでは訪問看護のリアルな仕事について情報を発信しています。もし興味があれば関連記事もご覧ください。

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「在宅療養推進法」とは

2020年7月に日本訪問看護協会が厚生労働大臣に提出した要望書によると、以下の項目について要望が織り込まれました。

【要望書の内容】
1、訪問看護提供体制の強化
2、看護婦等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針の改訂
3、看護職の確保・質向上のための資格管理体制の構築に向けた検討
4、2040 年を見据えた看護機能の強化
5、全世代型社会保障への転換を支える地域における療養指導環境の整備

この5つの文章だけでは理解するのが難しいので、ひとつずつ噛み砕いて解説していきます。

「在宅療養推進法」は、上記の項目の「訪問看護提供体制の強化」の中で書かれている内容で、名称は仮の名称となっています。

私が噛み砕いた内容については、出来るだけ分かりやすく伝えるために私自身の解釈もあることをご了承ください。

 

1、訪問看護提供体制の強化

この要望は『在宅療養推進法の制定』『訪問看護推進総合計画の策定』『訪問看護支援センターの設立』という内容になっています。

つまり、国にもっと本気で訪問看護をサポートするために、しっかり予算と計画を立ててもらいましょうという要望です。

さらに、もっと訪問看護の重要性を理解してもらい、施策をどんどん実行してもらえるように『訪問看護推進室』を厚生労働省の中に設置してもらうよう要望を出しています。

 

この背景には、訪問看護の需要増加に伴い安定的に人材を確保し、訪問看護を通じてもっと社会に貢献するするためといえます。

現に2025年には訪問看護師が約12万人も必要といわれていますが、2016年の段階では4.7万人しかいないとされています。

この課題を解決するためには、国から都道府県に対して助言や指導する事が必要だと要望書には書いてあります。

 

2、看護婦等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針の改訂

この要望も訪問看護師の人材確保が目的となっていますが、注目しているのは看護師の「働き方」に関する事です。

訪問看護師の残業時間や休日出勤の回数を減らしたり、仕事が終わってから次の仕事が始まるまでの時間(勤務間インターバル)に焦点を置いて要望が出されています。

 

この文のタイトルにある「看護婦等の確保を~」を見てピンと来たと思いますが、「看護師」ではなく「看護婦」と呼んでいるという事は、この指針はかなり古くから存在している事が分かります。

この指針は1992年から存在しているようですが、一度も改訂されていないようなので、今の時代に合わせて一度見直しが必要であることを要望しています。

具体的な基本指針と今後の見直しの案としては以下のようなものが挙げられています。

 

また、各都道府県のナースセンターなどを活用した取り組みによって、看護師を辞める人が減ったり、新たな看護師になる人が増えたという事例もあることから、全国のナースセンターをもっと有効活用できるように配慮して欲しいという要望も書かれています。

熊本県のナースセンターでは、まちづくりの一環として県外から「復興応援ナース」という名目で看護師を募集して一定の成果を上げているようです。

 

3、看護職の確保・質向上のための資格管理体制の構築に向けた検討

この要望は、厚生労働省が管理している看護師の資格保有データベースを元に、これを分析して人材確保するために何かアイデアを考えて実行したいという意図があります。

現在、厚生労働省が管理している看護師の情報データベースには、看護師の氏名などの情報しか登録されていないため、資格を保有しているけど現役で働いていない看護師に対して、なにか対策を打つ事で人材確保ができないかという考えです。

また、看護師の資格は届け出制度となっているので、届け出していない看護師については情報がない事も課題として挙げています。

 

日本訪問看護協会の要望としては、2040年に向けて看護師の資格保有者の届け出を義務化したいという考えのようです。

しかも、看護師の住所や現在の就業状況などの情報も管理したいという要望が出されています。

 

4、2040 年を見据えた看護機能の強化

2040年の私たちの社会は、少子高齢化がさらに進み人口も減少すると予測されています。

また、今の高齢者と将来の高齢者ではその生活環境も大きく変化していると考えられています。

この状況を踏まえ、国としての「看護機能」をもっと明確にしていきましょうという要望です。

 

要望書には「看護職の資格管理制度」「看護基礎教育の拡充」「生涯教育のシステム化」と書かれていますが、この文面だけでは具体的な施策についてははっきりと分かりません。

私の推測としては、ひとつは看護師の資格取得のハードルをもっと低くするなどの施策があるのではと予想しています。

看護師の人材不足がこれからも続くのであれば、資格取得のプロセスを見直ししてもっと簡潔に取得できるようにするべきという意見があってもおかしくないといえます。

 

5、全世代型社会保障への転換を支える地域における療養指導環境の整備

この要望は、看護師の仕事がいかに社会貢献に役立っているかというアピールと、さらにデータ収集するために調査・研究をしたいので、予算を確保してくださいというものです。

現在でも医療は全ての人に密接にかかわっているので、今後も効果的な施策をしていくために、まずは調査してそのデータを分析する必要があることを訴えています。

明確なエビデンス(証拠)と調査結果のもと、適切な方法で医療が地域社会に結び付いていけば、より社会への貢献度が深まっていくのではという事が書かれています。

 

 

訪問看護の働き方はどう変わる?

これまでは「在宅療養推進法」や、要望書の内容について解説してきましたが、ここからはこの法律が出来る事で看護師の働き方がどう変わるのかを解説していきます。

もちろん、この法律ができるのはまだ先の話なので、私個人の推測も含むことをご理解ください。

 

在宅療養推進法ができることによって起こりえるメリットとデメリットは以下のようになります。

【在宅療養推進法によって予想されるメリット】
1、賃金が改善される
2、より柔軟な働き方が出来るようになる
3、資格取得のための窓口が広がる
【在宅療養推進法によって予想されるデメリット】
1、看護師の個人情報が国に管理される
2、看護師の質が低下する
3、業務範囲が拡大する

これらのメリットについて私の推測を含めて解説していきます。

メリット1、賃金が改善される

看護師の人材不足を解消するには、賃金(給料)をもっと上げる事が最も効果的で手っ取り早い方法だと思います。

そのため看護師不足がさらに深刻になるようであれば、国も予算を使って動かざるを得ないと考えられます。

訪問看護協会が厚生労働省に提出した要望書には賃金の事は明記されてはいませんでしたが、今後の待遇改善については必然と言えるでしょう。

看護師は比較的賃金が高いと言われていますが、今後も魅力的な仕事だと思ってもらうためにはこの環境をいかに維持出来るかが重要となりそうです。

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メリット2、より柔軟な働き方が出来るようになる

この法律が出来る事でより柔軟な働き方ができるようになると予想が出来ます。

これについては要望書でも明言しており、例えば夜勤の回数や勤務間インターバルの目標値を定めることが書かれています。

現在、多くの訪問看護ステーションでは月給制か時給制を採用しているところが多いですが、一部では「成果報酬型」といって、訪問1件あたり○○円と定めているステーションもあります。

この場合は訪問看護ステーションと看護師が業務委託契約という形になるので、自分の空いている時間と訪問看護の依頼がマッチすれば個別に仕事を受けるという働き方になります。

 

このような働き方が増えると、自分の時間に合わせて働けるようになったり、必ずしも職場のルールに合わせなければならない、などの煩わしさから解放されるというメリットがあります。

その一方で、決まった給料が保証されないなどのデメリットもありますが、働き方の選択肢が増えること自体は歓迎しても良いと思っています。

 

メリット3、資格取得のための窓口が広がる

現行の制度で看護師になるためには、国が指定した看護師養成所を卒業して国家試験に合格するのが一般的ですが、将来的にはこの制度が多少変更されると予想しています。

訪問看護の大きな課題は人材の確保なので、これを解決するにはより看護師になりやすいような選択の幅を広げてくる可能性も出てきます。

国家資格への道が広くなると、看護師学校への入学に補助金が出たり、国家資格を取得するための支援案などが出てくる事が期待できます。

 

訪問看護ステーションにおいても、多くの看護師を抱える事が出来るとシフトの調整がしやすく有給が取れたりするなどのメリットもあります。

もちろん、ここはステーションの経営方針によって待遇の差は出そうですが、働く時間の調整が気軽に出来るようになれば多くの看護師にとってメリットになるといえます。

 

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デメリット1、看護師の個人情報が国に管理される

在宅療養推進法によるデメリットですが、看護師の個人情報が国に管理される事です。

これに関して具体的なデメリットはまだ未知数ですが、要望書には看護師のデータを収集して適切な人材配分をしたいという意図が読み取れるので、現役ではない看護師に対して連絡が来るなどが考えられます。

もちろん働くかどうかは本人次第ですが、国に管理される事で個人にとって様々な制約が出ることも考えておかなければいけません。

国が管理している情報が医療機関などと共有されるようになれば、今住んでいる地域の病院から「働きませんか?」などという連絡が来たり、場合によっては緊急要請なんて事にも対応を迫られるかも知れません。

 

デメリット2、看護師の質が低下する

メリットで看護師になるための窓口が広がることや国からの支援が期待できると説明しましたが、逆に看護師が多くなると質の低下が問われる事になります。

職場には多くの看護師が在籍する事になるので、それだけ多様な価値観を持った人が働くことになります。

現場の看護師はチームで動くのが基本なので、絶対数が多くなる事で質が低下することなどが懸念されます。

訪問看護の場合でも、同じ患者さんのもとへ複数の看護師が訪問するので、「あの人は○○してくれたのに…」という患者さんお不満に繋がることもデメリットとして考えておかなければいけません。

 

デメリット3、業務範囲が拡大する

予想されるもうひとつのデメリットは、看護師の業務範囲が拡大することです。

看護師の仕事は患者さんのケア以外にも事務作業や雑務なども多く、全体の仕事の中でもかなりの割合を占めています。

先ほど解説したように、国からの支援を受ける事ができるようになると人材確保や待遇改善のメリットはありますが、その一方では情報が管理されることにより管理業務などが増えることが予想できます。

例えば、看護師資格について数年ごとの更新が必要となったり、国に提出する書類を作成するなどの業務が増える可能性があります。

最近は情報のデジタル化が進んでいるので、書類の提出もインターネット上で出来るようになっていますが、それをパソコンで作成したりするのは非常に手間と時間が掛かります。

 

まおつん
メリットとデメリットを両方で考えると、まだどうなるかは分かりませんが、良い方向に向かってくれる事を願います。

 

まとめ

今回は日本訪問看護協会が厚生労働省に提出した要望書の中の「在宅療養推進法(仮称)」について噛み砕いて解説しました。

訪問看護師の人材不足に加えて少子高齢化が進むので、国のサポートがより一層重要な局面になると考えられています。

今回の要望書だけでは読み取れない具体的な施策などもあったので、中途半端な解説になった事はお許しください。

 

実際に現場で働くのは看護師である私たちであるので、良い方向に進むことを願いたいです。

まだ要望を出したという段階なので、今後どのような議論がなされていくのかを注目していきたいと思います。

 

まおつん
訪問看護に興味がある方は、早めに入職をしてスキルを積んでおくと良いかも知れません。
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