訪問看護の患者さんの意思決定支援の方法とは?

訪問看護師のまおつんです。

相談者
訪問看護師ですが、患者さんへ意思決定をお願いする場面が多くあります。
患者さんの本音を聞き出すために何かコツはありますか?

患者さんが望む生活を送れるようにすることが訪問看護師として重要な役割です。

終末期のケアにおいては重要な意思決定の場面が多くなり、患者さん本人やご家族とも相談しながらする機会も確実に増えます。

今回は患者さんの意思決定を支援するために必要なポイントを解説していきます。

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意思決定の場面で押さえておきたいポイント

患者さんについて様々な意思決定を行う場面が多くなると、ケアよりも患者さん本人やご家族と会話す時間が多くなります。

訪問看護師が話をする時、または話を聞く時に必ず押さえておきたいポイントは以下の通りです。

1、最終決定権は患者さんか代理意思決定者だけ
2、情報共有は速やかにおこなう
3、意思は変わるものと心得る
4、自分以外の人のほうが話しやすい事も…

これらのポイントについてひとつずつ解説していきます。

 

1、最終決定権は患者さんか代理意思決定者だけ

患者さんの意思決定場面において最終的に判断できるのは、患者さん本人かご家族などの代理決定者だけです。

訪問看護師が「こうした方が良いですよ!」と悪気はなかったとしても強引に誘導してしまわないように注意が必要です。

特に訪問看護師の立場である私たちは「訪問看護を利用しているくらいだから、最期は家で看取りたいだろう」と考えがちですが、家で看取る事がご家族の負担になるためそう考えていない方も多いです。

本人の意思をまずは尊重し、話を聞くようにしましょう。

 

2、情報共有は速やかにおこなう

本人やご家族から意思決定がされた場合は、訪問看護ステーションの全員へ速やかに情報を共有しましょう。

同僚の訪問看護師や管理者、担当のお医者さん、ケアマネージャー、ヘルパーに連絡をします。

最近ではタブレットやスマートフォンのグループLINEなどでやり取りをするケースもあるので便利になりましたが、このように記録に残る形で共有するのが望ましいです。

まおつん
情報共有は「いつ」「だれが」「どこで」「どんな時に」「どのような事を」「言った」など【5W1H】を使って全員へ共有すると連絡を受ける方もありがたいです。

 

3、意思決定は変わるものと心得る

患者さん本人や意思決定をする場面においては患者さん本人もご家族も動揺するので、その場で意思決定をしたとしても後でその判断が変わる場合もあります。

ここで訪問看護師は「この前はこう言いましたよね」などとは言わないようにしましょう。

人生の大事な選択を迫られているので、気持ちが変わるのは当然の事です。

何かを判断をしてもらう時には「後で変わっても大丈夫ですよ」「皆さん迷いますので大丈夫ですよ」と言い、じっくり考えさせてあげてください。

看護師は日々忙しい中でせっかちになりがちですが、意思決定をしてもらうためには根気よく待つことが大事です。

相手の立場に立って考えると、重要な判断は迷うのが当たり前だと気付く事が出来ます。

 

4、自分以外の人のほうが話しやすい事も…
訪問看護師にとってはショックかも知れませんが、あなたではなく他の人の方が本音で話がしやすいという事もあります。
患者さんやご家族からそういう雰囲気を感じ取った場合には、無理に話を聞き出そうとせずにヘルパーやケアマネージャーなど他の職種の人から共有してもらうようにしましょう。
急に判断を迫るのではなく、一歩ずつ近づいていくという感覚が大事です。

意思決定を支援するためのコツ

「意思決定」と聞くと、例えば会社の会議のような場で、社長が「YES」か「NO」で重要な判断をする場をイメージしてしまいます。

しかし、訪問看護の現場では、患者さんやご家族の意思を聞くためにそこまで堅苦しい雰囲気は必要ありません。

日頃のケア中の何気ないコミュニケーションの中で聞き出した情報なども意思決定といえます。

例えばあなたが今日の仕事が終わって帰りにコンビニに寄って「今日はビールにしようか。それともチューハイにしようか。」と決めるのも意思決定です。

このように意思決定は日頃の会話から確認することが出来ますし、そのための準備をしておく事も大事な心構えです。

 

意思決定を支援するためのコツをいくつかまとめました。

1、療養場所の希望を確認しておく
2、動けなくなった状態をイメージしてもらう
3、診療結果を聞く時などの場面では同席する
4、カンファレンスでは本人の意思を大事にする

 

1、療養場所の希望を確認しておく

患者さんが弱ってきた時に、どこでどのように過ごしたいかを日頃から確認しておくようにしましょう。

病状が急に変化した時やご家族の生活環境が変わった時はバタバタし、ゆっくりと意思確認のための時間が確保できない場合もあるので、日頃からのコミュニケーションで聞き取っておくようにすると良いです。

 

2、動けなくなった状態をイメージしてもらう

ADLが高い訪問看護の患者さんは、動けなくなった時の状態をイメージしにくい人もいます。

そのため、いまのところ日常での生活に不便を感じていない場合は、意思決定といわれてもあまりピンと来ないのがほとんどです。

具体的に確認するためには「もし一人でトイレに行けなくなったらどうして欲しいですか?」などと具体的なイメージを持って話してもらうようにしましょう。

 

3、診療結果を聞く時などの場面では同席する

終末期の患者さんにおいては、お医者さんの診療結果を聞いくときには相当に緊張しているものです。

例えば、入院が必要といわれた場合には、本人の意思とは無関係にその場で返事をしてしまう事もあります。

ただし、患者さんやご家族の本音は違っていることもあるので、訪問看護師は日頃から患者さの意思を確認しておき、このような場では患者さんの立場に立ってサポートしてあげましょう。

訪問診療の時には一緒に同席して、「前は〇〇と言っておられましたね。」と患者さんの本音を代弁してあげることが訪問看護師の重要な役割です。

 

4、カンファレンスでは本人の意思を大事にする

退院前カンファレンスでは、医者や看護師、ケアマネージャー、ヘルパーなどが集まり、患者さんの今後の療養生活について議論がされますが、「家族や周りの人がどのくらいサポートできそうか」など、患者さん本人ではなく、周りの環境などの都合で話が進みがちになります。

ここで訪問看護師として大事なポイントは、患者さん本人の意思をよく理解し、カンファレンスでは本人になり代わってきちんと代弁してあげる事です。

 

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こんな時はどうしたらいい?

これまでは患者さん本人の意思を確認するためのコツを解説しましたが、それでも「こんな時はどうしたら良い?」と悩むこともあります。

患者さんの中には、普段は口数が少なく、あまり話をしてくれない方もいらっしゃいます。

このような場面で訪問看護師はどう対処したら良いのかを以下にまとめました。

1、患者さんがなかなか本音を話してくれない場合
2、患者さんの要望通りにしても良いかどうか悩んだ場合
3、患者さんとご家族がお互いに話を聞かれたくない場合
4、ご家族が勝手に判断をしてしまう場合

 

1、患者さんがなかなか本音を話してくれない場合

口数の少ない患者さんは特に本人の意思を確認するのが難しい場合も多いので、自分の事を話してくれるのを待つ忍耐力が必要です。

日頃からの訪問時のケアを通して感じた事や患者さんの行動パターンから、この人はこういう事を考えているのかな?などと仮説を立て、簡単な質問からはじめてみるようにしましょう。

 

また、患者さんの中には看護師に話しても無駄と思っておられる方もいらっしゃいます。

そんな時には無理に心を開こうとするのではなく、とにかくケアに集中して地道に信頼関係を築いていくしかありません。

ふとした時に「そういえば…」と気を許して話をしてくれるケースもあります。

 

2、患者さんの要望通りにしても良いかどうか悩んだ場合

患者さんの体へのリスクがあるけれども、本人の要望を全て受け入れるかどうかは訪問看護師としてはいつも判断に迷う場面です。

例えば、誤嚥の危険性があるのに、本人はもっとご飯が食べたいと主張している時などがその代表的な例です。

こういった場合は一人で判断するのではなく、ステーション内で共有して判断する事が重要です。

患者さんの意思を尊重した時とそうでない時のメリットとデメリットなどを並べて、しっかりと議論したうえで解決策を導きます。

もし、デメリットの方が大きくて患者さんの要望に沿えない場合は、これらの事を丁寧に説明して理解してもらう必要があるので、先輩看護師や責任者に同席してもらうなどの工夫も必要です。

 

3、患者さんとご家族がお互いに話を聞かれたくない場合

患者さんとそのご家族は決して仲が悪いわけではないのに、お互いの本音を聞かれたくないケースはよくあります。

こんな時には看護師が間に入り個別にお話を聞くことになりますが、たいていの訪問時には患者さんとご家族も家にいる場合が多いので難しい時もあります。

そんな時には、別の看護師または管理者と2名で訪問し、別々で話を聞くなどの時間を設ける場合があります。

 

4、ご家族が勝手に判断をしてしまう場合

意思決定においては患者さんの本人から話を聞くことが大切と何度も言ってきましたが、なかにはご家族が勝手に話を進めてしまうケースもけっこうあります。

こういう場合であっても、本人の意思を代弁できるのは訪問看護師なので、「ご本人はこう言っておられます。」と伝えたり、「ご本人はどう考えると思いますか?」などとご家族に聞いてみるようにしましょう。

一番近くにいるはずのご家族でさえ患者さん本人の意思を正しく把握していない場合もあるので、時間をたっぷりと使って確認していくことが重要です。

 

 

まとめ

今回は終末期の患者さんにおいて、本人の意思決定の支援の方法について解説しました。

大事なポイントは、患者さん本人の意思が全てであるという事と、そのための十分なコミュニケーションが必要だということです。

訪問看護師は患者さんとご家族、または患者さんと病院など、間に入って橋渡しもするため大変な場合もあります。

しかし患者さんが幸福な人生を送るために必要なことだと考えれば、非常にやりがいのある仕事です。

まおつん
このブログを読むことで、患者さんのために動ける訪問看護師が少しでも増えてくれると嬉しいです。
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