訪問看護師のまおつんです。
みなさんは「ヤングケアラー」という言葉をご存じですか?
家庭の事情などでやむなく両親やきょうだいを介護する18歳未満の子供たちのことを一般的に「ヤングケアラー」といいます。
ヤングケアラー問題は、国が令和3年に大規模な調査をしたことによって、ようやく実態が浮き彫りになってきました。
これをうけて、日本全国の自治体がヤングケアラー支援に向けた取り組みを開始しています。
これ以外の自治体においても、実態調査をする動きが見られています。
実態が見えてくると、これから具体的な支援の方法などが検討できると期待していますが、まだまだ課題は多いように思えます。
これから私たち個人は、どのようにこの問題に向き合っていけば良いでしょうか。
今回は、訪問看護師の私がヤングケアラー問題について語っていこうと思います。
この記事を見て「もしかして自分はヤングケアラーかも」と思う心当たりがあれば、学校の先生や自治体の支援窓口にも相談してみましょう。
スマホひとつあれば「○○市 ヤングケアラー 支援」などと検索して、どこに相談すべきか調べることができます。
ヤングケアラーの現状
厚生労働省が文部科学省と連携して調査した「ヤングケアラーに関する調査研究について」によると、中学2年生の17人に1人、全日制高校2年生の24人に1人という割合でヤングケアラーが存在しているという結果が出ています。
つまり、クラスに1人、もしくは2人のヤングケアラーが存在するという調査結果になっています。
ヤングケアラーの実態
一般的に介護といえば、入浴介助や排泄支援、見守りや生活支援などがありますが、ヤングケアラーの実態はもっと多岐に渡ります。
「洗濯」「料理」「買い物」「兄弟の世話」など、日常的に必要な家事をすべて一人で行っていることが多いです。
また、認知症を患っている親を介護する場合は、介護者も非常にストレスを伴う精神的ケアまでもヤングケアラーが行っているケースもあります。
ヤングケアラーの多くは学生であるため、介護のために学校の勉強に専念することができず、大学進学を諦めたりすることも多く、将来の夢を叶えることも難しいといわれています。
本来、子どもは学校で勉強したり友人と遊ぶ中で社会性や協調性を身に付けていくものです。
ヤングケアラーの実態を客観的に見たとき、大切な青春時代を介護にあててしまうことは、子どもたちの将来にとって計り知れない損失だと考えられます。
ヤングケアラーは自分から声を出せない
最初に紹介したように、ヤングケアラー問題に関しては様々な自治体によって相談窓口が用意されています。
しかし、ヤングケアラー問題の根が深いところは「ヤングケアラー本人が自分で声を出せない」ということです。
彼らにとってここが一番高いハードルではないでしょうか。
ヤングケアラーの子供たちは、
「誰かに相談しておおごとにしたくない」
「知らない大人が家に来て親の面倒を見るのが不安」
「誰かに相談したところで何も変わらない」
という漠然とした不安を感じていることでしょう。
ヤングケアラー本人がそもそも支援を求めていないケースもかなり多いといいます。
北海道の調査では約8割が「相談したことがない」という結果も出ています。
その理由としては「誰かに相談するほどでもない」が大半ですが、本心には別の想いがあるのだと私は考えています。
ヤングケアラーとして育った子供の中には、その環境が当たり前だったと大人になってから語る方も少なくありません。
つまり、「自分は支援が必要なほど大変な思いはしていない」と本人が思い込んでいるため、このような回答をした考えるのが自然ではないでしょうか。
私はアンケート調査では把握しきれない潜在的なヤングケアラーがもっと多く存在すると考えています。
2025年問題で介護者が不足する
ヤングケアラー問題は、子どもの介護問題として少しずつ表面化しています。
しかし、介護業界全体で考えてみても「2025年問題」があるように、いわゆる「段階の世代」が75歳を迎えることにより介護費や医療費の増大などが問題視されています。
介護人材の不足もこの問題に非常に関連強いとされ、国の政策や取り組みに期待感が高まっています。
そもそも、介護職の人材は不足しているといわれているなかで、ヤングケアラー問題は必然的に重要度が増してくると考えられます。
いち早くヤングケアラーに手を差し伸べられるように早急に具体的な支援方法の検討を願うばかりですが、国や自治体にばかり頼ってはいられないのも事実です。
私たちができること
ヤングケアラー問題は、国や自治体はもちろん、地域の医療機関や地元企業など、社会全体で取り組むべき問題と考えています。
また、その地域で生活する個人としてもできることがあると思っています。
私なりに各機関ができる事をまとめたのが次の表です。
国ができること
ヤングケアラー問題に対して国ができることは、
・ヤングケアラー支援の政策
・介護職員の殊遇改善
・継続的な実態調査
だと考えています。
国から自治体に強いメッセージを出すことで、この問題に関心を持つ大人が増えることや、ヤングケアラー自身も声を出しやすくなると思います。
とはいっても、現場を支える介護職員はどこも人手不足なので、介護職員の処遇改善ももっと改善することも重要です。
2022年2月から1人あたり月額9,000円の手当てが支給されるようになりましたが、介護の仕事が魅力だと思ってくれるような政策にこれからも期待したいです。
また、ヤングケアラーの実態調査に関しては継続的に行ってもらい、「具体的にどんな支援が必要なのか」「どんな事に困っているのか」を正確に見極めることも国の重要な役割だと考えています。
地域社会ができること
地域社会においてもヤングケアラー問題に対してできることはたくさんあると思います。
具体的な解決策としては、
・学内でのヤングケアラー有無の把握
・医療機関と情報共有
・企業での介護ロボットの開発
・ヤングケアラーの就職斡旋
などがあります。
まずは、全国の学校単位、さらにはクラス単位でヤングケアラーが存在しているのかアンケートや聞き取りなどで把握することです。
ヤングケアラーが疑われる学生については、本人やご家族に十分に配慮したうえで医療機関に情報共有を行い、必要な支援をするなどの連携が必要です。
また、支援を必要とせず自身で介護を続けていく意思があるヤングケアラーのためにも、介護ロボットなどが企業によって開発されるのが期待されます。
開発にかかる資金を国から援助してもらうことができれば、企業も力を入れて介護ロボットを開発することができると思います。
さらには、ヤングケアラーが学校の勉強に専念できなかったために、就職など社会に出てからも不利益を被っているケースもあるようです。
そのため、受け入れる企業としてもヤングケアラーに対しての理解を深め、ヤングケアラーを積極的に受け入れる姿勢があるとより良い社会になるのではないでしょうか。
そもそも、ヤングケアラーは介護を長く続ける中で備わっている忍耐力や真面目さがあるはずです。
そういったプラスの面に目を向けることで、ヤングケアラーがもっと輝ける社会を目指して行きたいです。
個人ができること
最後、個人ができることは以下のものがあると考えています。
・ヤングケアラーの実態を知る
・大人から声を掛けてあげる
・話を聴いてあげる
まずは多くの人がヤングケアラー問題の実態を知り、それぞれが真剣に考えることから始まるのではないでしょうか。
この問題については、国をはじめ各自治体も実態調査を始めています。
また、埼玉県の例のように、具体提な支援を活性化させるための条例を出している地域もあります。
先ほど、「ヤングケアラーは自分から声を出せない」といいました。
そのため、友人家族など自分の周りでヤングケアラーが疑わしい子どもがいる場合は、大人から声を掛けてあげてください。
「よその家のことに口を出すのは…」と相談をためらってしまう気持ちも十分に分かります。
そういう時には、子どもの話を優しく聴いてあげることも出来るはずです。
話を聴いてくれる大人の存在はヤングケアラーにとって大きな心の支えになるはずです。
子どもが心を開いてさえくれれば、相談窓口に助けを求める手伝いもできるかも知れません。
介護保険のしくみなどは一般的に知られていないので、大人であっても相談すべきかどうかは判断が難しいものです。
相談窓口に行くときに付き添いをして、子どもの代わりに状況を説明することも出来ると思います。
ヤングケアラーは孤独じゃない
ヤングケアラー本人がこの記事を見ているかは分かりませんが、
ヤングケアラーは決して孤独ではありません。
学校で勉強についていけなかったり、友達と遊ぶ時間が全くなくて、クラスで取り残される気持ちになっているかも知れませんが、多くの大人たちはこの問題について真剣に議論をして解決に導いています。
ひとりで抱え込まずに、まずは身近の大人に相談してみてください。
学校の先生、親戚の人、友達の親、周りを見れば大人はたくさんいるはずです。
大人たちも、早く気付いてあげられるように注意して見ています。
ただし、すべてのヤングケアラーを把握するのは難しいので、自分から声を出すことも大切です。
いまの現状を変えるのは、ほんのちょっとの勇気かも知れません。
「自分は大丈夫」
「そんなに大した問題じゃない」
「支援なんか必要ない」
などと思わずに、一歩踏み出してみてください。
まとめ
今回はヤングケアラー問題について現在の実態とこれからできることを解説しました。
この問題は、国や自治体の調査報告などを見る限り、非常に危機感を持って取り組んでいることが分かります。
ただし、現状ではまだまだ実態が掴めておらず、必要な支援についてもまだ検討段階であるという印象を受けました。
こういった取り組みを期待しつつ、自分たちでも出来ることを一つずつ実行していきたいですね。
一人ひとりがこの問題に気付き、自らの行動を変えていく事で、無限の可能性を持つ子供たちが一人でも救われる社会にしていきたいと思います。
もし、助けを必要とするヤングケアラーに気付いた時には、大人から声を掛けてあげることは明日からできる取り組みです。
また、自治体の相談窓口に相談してみることも現状を変える有効な手段です。
引き続きこの問題に関して進展があれば記事にしていきたいと思っています。
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